大判例

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大阪地方裁判所 昭和43年(わ)1506号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕(罪となるべき事実)

被告人は

第一 昭和四三年五月五日午前二時四〇分ごろ、大阪府枚方市田の口二三三番地附近道路において、呼気一リットルにつき1.5ミリグラム以上のアルコールを身体に保有し、その影響により正常な運転ができないおそれのある状態で、軽四輪貨物自動車を運転し

第二 自動車運転の業務に従事していたものであるところ、右日時、場所(道路左側部分の車道幅員七メートル、二車線)において、右自動車を運転し、時速約五〇キロメートルでその左側車線を北進したのであるが、同所の手前約四キロメートル附近において、運転開始前に飲んだ酒の酔いのため、前方を確実に注視することが因難な状態になつたのであるから、直ちに同所において、自動車の運転を中止して事故の発生を防止すべき業務上の注意義務があるのに、これを怠り右状態で運転を継続した過失により、右第一記載の場所に進行した際、自車進路左側を同方向に向かつて歩行中の田中潤一(当時一九才)に気付かず、自車左前部を同人に衝突させて同人を路上に転倒させ、よつて、同人に約一か月間の加療を要する頭部外傷Ⅱ型左肩甲骨骨折、顔面打撲擦過傷の傷害を負わせ

第三 右第二のとおり田中潤一に傷害を負わせる交通事故を起こしたのであるが、その際通行人に負傷させたかも知れないことを認識しながら

一 直ちに自動車の運転を停止して同人を救護するため必要な措置を講ぜず

二 直ちにもよりの警察署の警察官に対し、事故発生の日時、場所等法定の事項を報告しなかつた

ものである。

(証拠の標目省略)

(弁護人の主張に対する判断)

弁護人は、被告人は本件各犯行時酒に酔い心神耗弱の状態にあつたものであるから、その刑を減軽すべきである旨主張している。

前記鑑識カードによると、被告人は、事故後約二時間五分経過した酒酔い検査時においても、呼気一リットルにつき1.5ミリグラムのアルコール濃度が検出されており、その言語、歩行能力、態度からみても事故当時における酒酔いの程度はかなり高度であつたことが認められる。

しかし、前記証拠によること、被告人は、事故当日午前二時すぎごろ、守口市大字東町二丁目二一九番地居住の同僚農山育司方から判示自動車を運転して出発し、午前二時三五、六分ごろ、事故現場の手前約四キロメートルの地点附近に至るまでは、自己の進行経路およびその附近の状況につき、ほぼ正確に認識していることが認められ、すくなくともこの時点までは運転能力および是非を判断して行動する能力が著るしく低下した状態はなかつたことが明らかである。このように運転開始時飲酒してはいるが責任能力に障害がないと認められる以上、その後運転継続中に、心神耗弱の状態に立至つたとしても、その後の酒酔運転(判示第一)につき刑法三九条二項を適用すべきものではないと解するのが相当である。また、判示第二の業務上過失傷害についても、その過失は、事故現場の手前約四キロメートルの地点附近において、運転を中止すべき注意義務に違反したことにあるのであるから、事故時心神耗弱の状態にあつたとしても、その過失責任を減軽すべきいわれはない。さらに前記証拠によると事故現場の手前約四キロメートル附近から前方を確実に注視することが困難な状態となり、衝突時被害者に気付かなかつたのは、酒酔いの程度が高度であつたことのみによるものではなく、前記農山方から国道一号線に出るまでは通行経験のない道路であつたが、国道一号線はこれまでしばしば通行したことがあるうえ、事故現場の手前は直線道路で通行車両も殆んどなかつたため注意力が弛緩したことによるものであつたものと認められる。そうして、一時このような状態(いわゆる居眠り運転に類似した状態)に陥つても、外部の刺激または状況の変化があるときは精神が緊張し、判断能力が回復するものであることは日常経験上明らかであるところ、前記のとおり、被告人の自動車は、事故時相当強度の衝撃を受け、前面ガラスが完全に破損したため、被告人は、「ハットとして」ハンドルを右に切り、通行人に負傷させたかも知れないと認識したものであることおよび事故後約三キロメートル走行した地点で前記小川らから「ひいたのではないか」と問われや、直ちにこれを肯定して現場に引き返えしていることに徴すると、事故直後においては是非を判断して行動する能力が著るしく減弱した状態にはなかつたものと認めることができる。

したがつて、弁護人の主張は採用しない。(伊沢行夫)

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